激録・イタリア留学@ミラノ工科大学そしてブルガリア

ミラノ工科大学とイタリア留学の実情とブルガリア

ブルガリアと共産主義

 ところで日本では共産主義が普段の生活の話題や社会問題としてニュースに出ることは殆どない.

 しかしブルガリアでは,共産主義について考えることが多い.なぜならばブルガリア現在抱える問題の多くが共産主義の影響によるものが多いからだ.正確に言うと共産主義国家であったことが原因にある.

 例えばマフィアの存在である.ブルガリアではマフィアが政界や裁判所などと繋がりを持っていることが問題となっている.

 マフィアの存在にも共産主義国家であったことが関係している.ブルガリアのマフィアは元々共産党シークレットサービスであった集団が元になっているらしい.90年代の終わり,ブルガリア共産主義が崩壊し民主化された時にシークレットサービスとして働いていた人の多くが仕事を失った.いくらかの人は新政府で仕事を得たのだが,そうでない人々は自分たちの経験を生かしてマフィアとなったのである.さらに問題であったのは元々シークレットサービスであった人々が新政府とマフィアに分かれたとしても繋がりが絶たれたわけではないということである.この繋がりが現在のマフィアと政府の関係に繋がっている.

 政府との関係だけがマフィアをここまで強くした訳ではない.もう1つの要因はブルガリア民主化した後のユーゴ紛争にもある.一部のマフィアはこのユーゴ紛争の最中に石油を横流しし,高い金額で売り成長の糧としたとも言われている.

 次に経済の低迷がブルガリア民主化した後のもう一つの大きな問題である.これも共産主義国家であったことが原因とも考えられる.

 共産主義では,どれだけ働いても皆が同様の報酬を受けるようになっている.これの良いところは格差の広がりや失業者といった問題が生じないことであるが,悪い面として労働意欲の低下がある.どれだけ頑張っても同じ報酬なら,さぼったほうがええやん,となるのが人間の性である.共産主義の最中ではブルガリアでもこのように考える風潮が出来上がっていたと考えられる.

 そうした中で体制崩壊後,急遽民主化共産主義とは真反対の資本主義が導入されたのである.原則的に資本主義では働くほど報酬が多くなる.この経済構造の中でブルガリアが成長するには国民みんなが頑張って働きまくる必要がある.しかし長きに渡る共産主義の影響でそのような機運は国民の間に存在しにくくなっていた.特に体制崩壊後すぐの間にはその傾向が強かったと考えらえる.なので現在もブルガリアの経済は低迷しているのである.しかし,共産主義を知る年代も将来的にはいなくなるので希望はあるかもしれない.

 共産主義この様に2つの大きな問題をもたらしたが,皆が皆共産主義を嫌っている訳ではない.年代によって共産主義に対する見方は異なるのである.

 例えば、第二次世界大戦ブルガリアが共産化し皇室や優秀な人材が殺されたり迫害さ

れた時に大人であった現在のお年寄りは非常に悪いイメージを持っていると考えられる。

 だが,その次の世代は、第二次世界大戦後の悲劇も知らないが60年代や70年台のブルガリア共産主義の最盛期を経験し民主化後の経済の悪化を経験しているので、共産主義は良かったと言う傾向がある.

 しかしその次の世代である90年代前後に大学生くらいで共産主義の打倒に協力した世代は、悪い印象を持っていることが多い.この様に年代によっては共産主義時代を懐かしむ人もいる.

 この共産主義に対する印象の年代による違いが現在の政局に影響を与えている.例え

共産主義政党はブルガリアで未だ力を持つし,現在の大統領は、Todor Zhivkovというブルガリア共産主義が打倒されたときの指導者のボディーガードであった人である.つまり共産主義は打倒されたが完全に駆逐された訳ではなく,現在も少なくない数の人が好意的に見ているのである.

 自分の中では共産主義といえば悪者みたいなイメージがあったが,それは日本が西側陣営にいたからであり,実際に共産主義であった国では単純に悪者として片づけられる問題ではないという事が感じられた.